下肢静脈瘤にはさまざまな原因があります。
ここでは下肢静脈瘤がなぜ起こるのか、その原因としくみ(病態)についてわかりやすく解説したいと思います。
下肢静脈瘤になるしくみがわかると、下肢静脈瘤になりやすい人は何が原因なのかもご理解いただけます。

下肢静脈瘤はこうして起こる

コブ

下肢静脈瘤の「瘤(りゅう)」というのは「コブ」という意味。
下肢(脚)の静脈がコブのようにふくらむことを表し、「下肢静脈瘤」という名前がついています。
(中にはコブは無い、もしくは目立たない、むくみやだるさ、湿疹や皮膚の変色などが主な症状であることもあります)

「コブ」と聞くと癌(ガン)のように静脈が腫瘍化するものと捉える方もいらっしゃいますが、そうではありません。
静脈としての働きが悪くなった結果、静脈がふくらんでコブのようになる、というのが静脈瘤の原因・正体なのです。

静脈の働きが悪くなりやすい(=静脈瘤になりやすい)原因は、体質や遺伝、立ち仕事などさまざまなことが考えられますが、これについてはあとで詳しく解説しています。

まずは、下肢静脈瘤の正体ともいうべき原因について解説します。

その前に・・・

静脈の働きについて簡単にお話しておきましょう。
血管には「動脈」と「毛細血管」と「静脈」があります。
この3つの血管の役割を理解すれば、下肢静脈瘤について一気に理解が深まります。

動脈と静脈

動脈は、心臓から送り出された酸素や栄養を豊富に含んだ血液を臓器や手足の先まで届ける管のことです。
毛細血管は、動脈を流れてきた血液から酸素や栄養素などを身体中の細胞や末端に輸送し、同時に老廃物を回収する役割をしています。
静脈は、栄養分が少なく老廃物を含んだ血液、いわゆる「汚れた血液」を心臓に戻す血管です。

動脈では、心臓がポンプの役割をして、1分間3~5リットルもの血液を動脈へ送り出します。
しかし、静脈には血液を心臓へ戻すポンプの役割をしてくれる装置がありません。
頭などの心臓より高い位置に流れていった血液は、重力で自然と心臓に帰ってきますが、下半身の血液は重力に逆らわないと心臓に返っていけないのです。

それでは、どのように血液を戻しているのでしょうか?

静脈の2つのしくみ

ふくらはぎのポンプ作用
静脈が足の静脈血を下から上(心臓)へ返すために、以下の2つの機能があります。

  1. ふくらはぎの筋肉による「ポンプ作用」
  2. 血液の逆流を止める「弁」

①ふくらはぎの筋肉による「ポンプ作用」

ふくらはぎに力を入れると筋肉が肥大しますよね。
これにより静脈が押しつぶされた勢いで、静脈のなかに溜まっていた血液が上へ押し出されるのです。
筋肉がまるでポンプのように作用して血液を下から上へ戻していく、これがふくらはぎの筋肉によるポンプ作用です。

静脈の筋肉ポンプ作用

②血液の逆流を止める「弁」の存在

ふくらはぎの筋肉のポンプ作用で、下から上に血液を送っても、静脈がただの管だとしたら、重力によってまた下に引き戻されてしまいます。
そうならないように、静脈の中には「静脈弁」(また名を「逆流防止弁」)があり、これによって血液が逆流しない仕組みになっています。
静脈弁は「ハ」の字をしており、下から上には流れますが、上から下には流れない一方通行の構造です。

静脈の逆流防止弁

下肢静脈瘤になったら・・・

冒頭で下肢静脈瘤の原因は「静脈としての働きが悪いから」とご説明しました。
「静脈の働きが悪い」とは、静脈のなかにある逆流防止弁が壊れ、血液が上から下へ逆流するようになった結果、汚れた血液がうまく心臓に返っていかない状態をいうのです。

以上をまとめると、下肢静脈瘤の原因は以下4つということになります。

POINT

  1. 静脈の逆流防止弁が壊れる
  2. 本来心臓へ戻るべき血液が逆流する
  3. 逆流した血液により静脈がふくらむ
  4. ふくらんだ静脈がコブのようになる

下肢静脈瘤になりやすい人

下肢静脈瘤にはなりやすい人と、なりにくい人がいます。
では、どんな人がなりやすいのでしょうか。
はっきりと原因がわかっているのは以下の4つです。

  • 遺伝
  • 妊娠&出産
  • 加齢
  • 立ち仕事

このなかで一番大きな原因は遺伝的な原因(つまり体質)です。
それを言ってしまったらもともこうもないのですが、残念ながら生まれたときに下肢静脈瘤になりやすいかどうかが決まっています。
主な4つの原因と合わせて、そのほかの原因についても詳しくご説明します。

下肢静脈瘤になりやすい主な4つの原因
下肢静脈瘤になりやすい主な4つの原因

原因①「遺伝」

遺伝
下肢静脈瘤は非常に遺伝性が高い病気です。
父親、または母親のどちらかに下肢静脈瘤がある場合には約40%、両親ともにある場合は約80%発症すると言われています。
「自分の両親は大丈夫」と思っても、静脈瘤があっても子供に言わない方も多いです。思い当たるふしがなくても、両親に一度は確認をしたほうがよいかもしれません。
もし両親に静脈瘤がある方は、日頃から足の状態をチェックしておき、むくみやだるさなどの症状が強いようであれば早めに受診するのが良いでしょう。

原因②「妊娠・出産」

妊娠・出産
女性は妊娠・出産をきっかけに下肢静脈瘤ができやすくなります。
大抵の方は出産後に自然に改善していきますが、残念ながら1~2割の方は目立った血管やむくみが残ってしまいます。
また、出産回数が増えるほど、出産後も症状が残るようになります。
妊娠時は、女性ホルモンの影響で血管が広がりやすくなること、お腹の赤ちゃんの影響で静脈が圧迫されて血液が心臓に戻りにくくなることなどで、下肢静脈瘤が発症しやすくなります。

原因③「加齢」

年齢が高くなるにつれ下肢静脈瘤になる頻度は上昇します。

下肢静脈瘤なりやすい年齢割合

下肢静脈瘤と聞くとご年配の方々の病気だというイメージがあるかもしれませんが、30歳以上では2人に1人が下肢静脈瘤になっている可能性があるのです。
年をとるにつれて静脈の逆流を防ぐ弁が壊れたり、足の筋肉量も減ってふくらはぎの筋肉によるポンプ作用がうまく機能しなくなるためです。
ちなみにこの報告では10代と20代を一緒にしてあるので20代だと一見少ないように見えますが、日々の診察では20代後半でも発症している方が非常に多いです。

原因④「立ち仕事」

店員作業員板前美容師警備員接客業

1日に8時間以上立ち続けている人に下肢静脈瘤の発生頻度が高いことがわかっています。
長時間立ったままでいると、静脈のなかの血液はずっと重力の力をうけることになります。
そうなると、逆流防止弁に過度な負担がかかり、ついにはゆるんで閉じなくなってしまいます。
なお、同じ立ち仕事でも途中で歩いたり動き回っている場合には筋肉のポンプ作用が働きますので、なりにくいです。

立ち仕事の例

  • 美容師
  • 理容師
  • 教師
  • 調理師
  • 板前
  • 店員
  • 工場の作業員
  • 警備員

など

その他の原因

女性全般

女性
男性よりも女性の方が下肢静脈瘤になりやすい傾向があります。
その一因としてご説明した通り妊娠・出産を経験する方が多いこともありますが、そうでなくとも男性に比べて軟部組織(体を構成している軟らかい部分)が弱いため、静脈弁が壊れやすいということがあります。
また、足のむくみやだるさに敏感であることや、美容面でも改善を望まれる方が多いため、男性に比べて病院に行く割合が高いという理由もあります。

運動不足・肥満の方

肥満
運動不足では、足の静脈の流れは悪くなりがちです。
筋力が衰えることでふくらはぎの筋肉ポンプ作用も弱くなります。
肥満が直接的に下肢静脈瘤になりやすいかどうかは賛否両論ありますが、高度な肥満では下肢静脈瘤になりやすいと考えられています。

Q&A~下肢静脈瘤の原因~

原因

高脂血症(こうしけつしょう)と診断されたのですが下肢静脈瘤と関係ありますか?
高脂血症の方は血液がドロドロしています。
ドロドロの血液そのものが下肢静脈瘤の発生リスクにはなりません。
しかし、下肢静脈瘤がすでに発生している場合にはコブの中で血の塊(血栓)ができやすくなる恐れがあります。
喫煙は下肢静脈瘤と関係ありますか?
下肢静脈瘤の発生に直接関係はありません。
しかし、喫煙により血管がかたくなっているため、血管がふくらみにくく、診断が遅れて重症化しやすいという傾向があります。
また、静脈より動脈に対する影響が強いです(動脈硬化など)。
網目状に赤紫色に変色しているのですが、こぶはありません。下肢静脈瘤でしょうか?
下肢静脈瘤は静脈がこぶのように膨らむ「伏在型静脈瘤」とそれ以外の「軽症静脈瘤」に分類されます。
軽症静脈瘤は伏在型静脈瘤のようなコブには進行せず、皮膚のすぐ下にある細い静脈が膨らんで、青白い色や赤紫色に見える静脈瘤です。
網目状に赤紫色に変色しているのは軽症静脈瘤の可能性がありますので、専門医療機関での検査が必要かと思われます。
下肢静脈瘤を疑っています。治療方法は手術だけでしょうか?
下肢静脈瘤の治療方法には症状を改善する治療(弾性ストッキングによる圧迫療法/硬化剤を注射する硬化療法)と根本的な治療(カテーテルを用いた血管内治療/静脈を引き抜くストリッピング手術)があります。
詳細は下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)の主な5つの治療法をご確認ください。

岡本慎一医師監修