下肢静脈瘤の治療のひとつに手術治療があります。
「血管内治療」といって、手術といっても所要時間は片足15~20分程度の日帰り治療です。
皮膚を切らずにカテーテルという細い管を血管内に挿入し、高周波またはレーザーで静脈を内部から焼いてふさぐ手術になります。保険も適用されます。
以前は、日帰りとはいかず皮膚を切って静脈を抜く手術(ストリッピング手術)が主流でした。

ここでは、下肢静脈瘤の血管内治療(レーザー・高周波)について解説します。

尚、下肢静脈瘤の治療法には手術以外にも圧迫療法(弾性ストッキング)や硬化療法(注射)等も御座います。
治療法全般についてお知りになりたい方は、以下の記事をご覧ください。
→ 下肢静脈瘤の治療法全般について

下肢静脈瘤の血管内治療とは

血管内治療の正式な手術名称は「下肢静脈瘤血管内焼灼術(かしじょうみゃくりゅうけっかんないしょうしゃくじゅつ」です。

正式名称にある焼灼(しょうしゃく)という名の通り、下肢静脈瘤の原因となっている静脈を、血管の内側から焼いて治療します。
焼灼に使用するのが、レーザーだったり高周波だったりするのです。

レーザー治療も高周波治療も、原因となる静脈を焼くという治療法は同じで、どちらも血管内にカテーテル(細い管)を挿入して行うという基本的な手技は一緒です。
血管を焼くときの熱を出すためのシステムがレーザー光を使用するのか、高周波を利用するのか、機器の違いとなります。

高周波治療とレーザー治療

レーザー治療と高周波治療の違い

冒頭で申し上げたように、血管内治療の基本的な手技はどれも一緒ですが、血管を焼くにはレーザーか高周波か、どちらが良いのかという疑問を持たれるかと思いますので、それぞれの特徴を説明していきましょう。

レーザー治療の特徴

レーザーと一言で言っても、これもレーザー光の波長と照射方法の違いによってデバイスが違います。

2011年1月に最初に保険適用になったのは波長980 nmのレーザーでした。
しかし、術後の痛みや皮下出血、再発が多く、2014年に1470 nmレーザーが保険適用となったことで治療後の満足度が向上しています。

レーザーの波長980 nmと1470 nmの差は、どれぐらいのエネルギーで静脈を焼くことができるかの違いです。
当然、焼くのに大きなエネルギーを要すれば合併症のリスクが上がりますが、1470 nmのレーザーは、エネルギーが拡散せずに効率よく熱エネルギーに変換され焼灼することが可能です。

レーザーのデメリットは、目への悪影響があることです。
980mmでは網膜損傷や視神経損傷などの可能性、1470 nmでは水晶体損傷を引き起こす可能性があると言われておりますので、レーザー照射時には患者様、術者とも充分に注意を払う必要があります。

高周波治療の特徴

高周波とは、周波数の高い交流電流のことをいいます。
こちらは、2014年6月に保険適用になりました。
光も音にも当てはまりますが、周波数とは1秒間につくる「波の数」です。
家庭用交流電流は、50Hzもしくは60Hzに対し、高周波治療で使う交流電流の周波数は460kHz(46,000Hz)とかなり大きいなものです。
一般的に家庭で使用されている高周波電流といえば、IHクッキングヒーターがあります。
これは、内蔵されたコイルに高周波電流を流すと磁力が発生し、鍋やフライパンなどの調理器具とヒーターが接触している部分に電流が発生します。
電流が、調理器具の内部に流れるとき電気抵抗によって熱が発生します。

下肢静脈瘤の高周波治療では、カテーテル(細い管)先端にある金属に高周波電流が流れ、熱が発生し、これに静脈の壁をくっつけることで焼くことができます。
金属の周りは絶縁体になっていますし、そもそも高周波電流は人体にはほとんど流れないので感電しないため、安全です。

高周波治療のメリットは、レーザー治療に比べて手術時間が短いことです。
一方デメリットは、高周波を出すカテーテルの先端の長さが7㎝もあるため、くねくね曲がっている血管内を通して焼くのには技術が必要になります(ただし現在は、高周波の出る部分がより短い3㎝のタイプが登場しています)。

レーザーと高周波の治療成績について

かつて980nmレーザーが使用されていた頃は、術後の痛みや皮下出血(いわゆる内出血)が強いことが問題となりました。
その後を追うように保険適用された高周波治療は、合併症が非常に少なく、高周波治療のほうが優れていると考えられていました。
しかし、1470nmレーザーが保険適用となってからは、レーザーの治療成績も大幅に改善し、現在は高周波と同等になりました。

実際、2017年の日本静脈学会の発表演題の中で、980 nmレーザー、1470 nmレーザー、高周波を比較した発表がありました。
980 nmのレーザー治療は、1470 nmや高周波に比べて皮下出血や痛みの頻度が高く、再発率もやや高い結果でしたが、1470 nmと高周波とでは皮下出血や痛みの頻度や再発率はいずれも低く、同じ治療成績でした。

結論としては、現在のところレーザーと高周波で、治療成績での差異はほとんどないと考えて良いでしょう。

痛み(左)と皮下出血(右)の比較

痛みと皮下出血の比較

Closure FAST = 高周波、Laser=レーザー(980 nm)

  1. Almeida JI. Recovery trial interim results, 34th Veith Symposium. Nov 14-18, 2007. New York.
  2. Moderate to severe ecchymosis is defined as bruising over greater than 25% of the treated surface area.

実際に治療する血管はどこ?

以下のイラストでは、ふくらはぎの血管が浮き出ているところではなく、太もも近くにカテーテルを入れて血管を焼いています。

血管内焼灼のカテーテルの図

これを見て「血管がボコボコしているところにカテーテルをいれるわけではないの?」と思われる方も多くいらっしゃると思います。
この疑問を解決するには、下肢静脈瘤がなぜ起こるのかを理解していただく必要があります。

血液を心臓に戻す血管を「静脈」といいますが、足の静脈は重力に逆らって下から上に血液を戻さなくてはなりません。
下から上に血液を戻すには、ふくらはぎの筋肉による「ポンプ作用」血液の逆流を止める「弁」の2つの機能があります。

これがうまくいかなくなると、静脈血液の逆流が起こってしまいます。
多くの場合、その逆流の原因となるポイントが太ももの内側(足の付け根あたり)なのです。
血液のたまりはふくらはぎで起こるので、ふくらはぎに症状が出やすいのですが、実際の原因はそれより上流にあります。

ですから、下肢静脈瘤の治療の部位は、ボコボコとした血管部分ではなく逆流ポイントである太ももになるのです。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
→ 下肢静脈瘤の原因としくみについて

血管内治療は保険が適用される

保険が適用
血管内治療は、日本で2000年ごろから行われている手術です。
しかし、当初は保険適用外で自由診療だったため費用が高く、画期的な治療であっても多くの方が受けられるわけではありませんでした。
時代は進み、2011年にレーザー治療が、2014年に高周波治療が保険適用になり、今では多くの場合で下肢静脈瘤の治療法の主流となっています。

血管内治療の4つのメリット

メリット1:手術が短時間で行われる

手術が短時間
レーザー治療や高周波治療の手術そのものにかかる時間は、片足平均15分~20分です。さらに、日帰り手術で入院の必要はありません。

メリット2:皮膚を切らない

皮膚を切らない
従来の手術方法では、皮膚を5cmほど(しかも2か所以上)切開し、悪くなった静脈を引き抜く必要がありました。
男性だと気にしない方もいますが、女性にとっては足に傷ができることはかなり抵抗があるのではないでしょうか。
血管内治療では、針穴からカテーテルを挿入するだけですので切開の必要はなく、美容的観点からもすぐれた術式だと言えます。

メリット3:手術中の痛みがほとんどない

痛みがほとんどない
当院では、患者様に少しの痛みも感じさせないために血管内治療は局所麻酔静脈麻酔2つを使います。局所麻酔とは足に行う部分的な麻酔のことで、数か所細い針をさして麻酔薬を太ももにしみこませていきます。
細い針ですので、「チクッ」とする程度ですが、当院ではこの「チクッ」も許しません。局所麻酔の前に点滴から静脈麻酔(眠ってしまうお薬、鎮静剤)を入れることにより、「チクッ」すらもわからず、ウトウト眠っている間に手術が終了するようにしています。

メリット4:術後の制限がほとんどない

軽い運動
手術後はすぐに歩いて帰ることができます。帰った後も安静は不要で、家事も行えます。
シャワーや軽い運動は翌日から可能ですし、痛みについては個人差がありますが、通常痛み止めを飲む必要がない場合が多いです。
もし内服したとしても1日~2日程度です。

血管内治療の実際の手順

血管内焼灼術(レーザー・高周波)

針穴の傷口からコブを抜き取る(スタブアバルジョン法)

レーザーや高周波を使用するほかに、「スタブアバルジョン法」という治療法もあります。
レーザーや高周波を使用する血管内治療は、あくまでも逆流している血管を焼いてふさぐ手術ですので、瘤(コブ)に対して直接的な治療ではありません。
また、治療により小~中程度の瘤(コブ)は自然に退化していくのですが、コブが非常に大きいケースでは残ってしまう場合があります。
かなり大きくなってしまったコブに対しては、小さなキズからコブを切除することで、確実に無くすことができます。
これを「スタブアバルジョン法」と言います。

ただし、キズが増えることに加えて、コブを切除した部分が術後に腫れたり炎症を起こすこともあるので、血管内治療だけで治療できるのか、スタブアバルジョン法も行う必要があるのかは、医師の経験に基づく判断が非常に重要なカギとなります。
当院では、特殊な技術を用いて通常より病的な血管を長く焼くことで、スタブアバルジョン法をなるべく併用せず、足に負担が少ない手術を心掛けています。

岡本慎一医師監修