患者さまにとって、下肢静脈瘤の検診、手術、術後の経過など、不安に感じることも多くあるのではないでしょうか。当院では下肢静脈瘤の治療のために無痛手術にこだわっています。また、再発や合併症を起こさないために十分な注意を払っています。当院がもっとも大切にしている、下肢静脈瘤の治療へのこだわりについてお伝えします。

当院の「下肢静脈瘤の治療」へのこだわり

下肢静脈瘤のプロだからこそ治療の押しつけはしない「ファースト&ファスト」を大事に

当院がもっとも大切にしている治療のスローガン「ファースト&ファスト」。このファースト(first)とは「患者さまファースト」のことです。

これは、治療法を決定するにあたって患者さまの希望を最優先に考える、つまり「患者さま第一主義」ということを表します。

静脈は身体のすみずみまで送られていった血液を再び心臓へ戻す働きをします。下肢静脈瘤とは、静脈の弁の欠損などの理由で、血液が静脈に溜まり瘤状になった状態です。

下肢静脈瘤は、基本的には命にかかわる病気ではありませんが、立ち仕事など、長時間にわたり足の静脈に負担がかかっている状態が続くことにより発症しやすくなってしまいます。医療用弾性ストッキングにより、症状が改善することもありますが、使用には慎重な注意が必要なケースもあります。

また、足の外見が変化することもあり、美容的要素として気になる方もいるでしょう。数年~数十年かけてゆっくり進行することもあり、治療するかどうか、その治療法の選択、治療時期についても様々なご要望があると思います。

どの治療をどのタイミングで行うのが患者さまにとって最良の選択なのか、決して治療の押し付けにならないように患者さまとじっくり相談しながら、患者さまのご要望を最大限反映できるよう治療方針を決定します。

患者さまを待たせない。「時間は、命の一部」と考え、尊重する

ファスト(fast)には2つの意味があります。それは「早さ」と「速さ」です。
「早さ」は、診察までの待ち時間を最小限にすることです。初診から手術までの待機期間をなるべく短くし、極力患者さまが「待つ」時間を無くすようにしています。

それは、なぜか。当院は、時間は「命の一部」と考えています。ですから、患者さまの大切な時間を奪わないよう、独自の予約システムや診察システムを取り入れ日々スムーズなご案内を心がけています。

一方、「速さ」は手術時間をなるべく短くすることです。早く終わると雑な対応をされるのではないかと考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。当院では、これまで日々膨大な数の手術を経験してきました。これにより、技術的な正確さを担保しながら迅速な手術を行うことが可能となっています。

当院では、片足の手術なら早くて「5分」、複雑な症例でも「15分」で終了します。手術が速いということは、手術合併症である深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群を回避し、麻酔による副作用や手術体位によるストレスを最小限に抑える効果があります。手術時間が短いと、手術前は緊張されている患者さまも、終わってみればあまりの早さに驚かれます。そして「こんな簡単ならもっと早く受けておけばよかった」とおっしゃります。手術を希望された患者さまがなるべく快適に、そして苦痛を感じないように、心のケアにまで配慮することが当院の目指す下肢静脈瘤の治療です。

「無痛手術」を目指し、「麻酔のための麻酔」を導入

手術をするときに必須の麻酔。
麻酔をすることで、手術中の痛みを感じなくさせるものですが、この麻酔をするための注射が痛いというお声をよく耳にします。

実際、高周波治療(※治療の詳細は別ページへ)は足に局所麻酔を行いますが、この局所麻酔が痛みを伴うのです。抜歯をするときも、歯を抜くときは痛くなくてもその前に行う麻酔の注射が痛いのと似ているでしょう。

当院では、この「痛い」を少しでも無くすため局所麻酔による痛みも感じないように、“局所麻酔で痛みを感じないための麻酔”を行います。局所麻酔の直前に、点滴から眠くなる麻酔を投与し2~3分程お眠りいただいています。その間に局所麻酔をするため、局所麻酔によって痛みを感じることがありません。ただし、静脈麻酔に抵抗がある方は、局所麻酔だけでも手術可能ですので、遠慮なくお申し出ください。

カテーテル手術(※治療の詳細は別ページへ)では、この2つの麻酔に加えて、焼灼する静脈の周囲にも特殊な麻酔を行います。この麻酔を「TLA麻酔※」と言います。TLA麻酔は、皮膚の表面に行う局所麻酔と異なり、焼灼時に静脈周囲に熱傷、いわゆる「やけど」が起こらないようにする麻酔です。静脈周囲には神経や血管、皮膚などがあるため、それらがやけどを起こすと痛みや術後のしびれ、皮膚の変色(色素沈着)が起こってしまいます。

そのため、静脈瘤手術においては非常に重要な工程となります。この麻酔は、正確に静脈周囲に行う必要があるため、エコーで静脈と注入する針の位置関係を確認しながら行います。エコーテクニックが不十分だと手術時間が不要に長引くことに加えて、正確な場所に注入できていないと焼灼中に周囲組織のやけどが生じ、先ほど述べた合併症が生じるリスクが高まります。こういった技術に習熟していることはもちろん必要ですが、当院では“イリゲーターポンプ”というTLA麻酔専用の器具を導入して、よりスムーズで痛みのない麻酔を実現しております。
※ Tumecent local anesthesiaの略 日本語では低濃度大量膨潤麻酔法

高周波治療について
カテーテル手術について

皮膚を切らない血管内治療の実情

血管内治療とレーザー治療との違い

血管内治療とは、血液が逆流している静脈の中にカテーテルという針の先にも満たない細い棒を通し、高周波(またはレーザー)で静脈を焼灼し塞いでしまう手術です。

局部麻酔をしたうえでの血管内の治療なため、皮膚の切開や縫合の必要が無く足へのダメージが非常に小さいことが最大の利点です。手術中のみならず、術後の痛みや腫れもほとんどありません。“レーザー治療”という言葉をご存知の方が多いかと思いますが、“カテーテルを静脈内に挿入し内部から焼灼する”という点においては同じ手技であり、術後の痛みや腫れ、治療成績もほぼ同等です。

どちらも現代医療の主流である「低侵襲治療(ていしんしゅうちりょう)※体への負担(侵襲)を減らした治療」と呼ばれるにふさわしい治療です。当院では、下肢静脈瘤の血管内焼灼術に使用される機器の中でも治療成績に優れており、患者さまの体への負担が少ない高周波機器(Closure FAST®)を使用しています。

高周波治療では正確なエコー下血管穿刺テクニックが重要

高周波治療では、まず下肢静脈瘤の原因となる伏在静脈を針で穿刺し、その針の穴を通して静脈内に直径約1mmのガイドワイヤーを挿入します。このガイドワイヤーが入らないとカテーテルも挿入できず、手術を行うことができません。直径数mmの静脈に1mmのワイヤを通すのは非常に高度な技術が要求されます

皮膚を切開しないため静脈を直接見ることはできませんので、穿刺はエコー(超音波検査機器)を使って行います。エコーの画面を見ながら、直径数mmの静脈に、正確に穿刺針を刺入するテクニックは習得が難しく、この手術をマスターするうえで最大の難関と言われています。

エコーを見ながら体表から見えない深部で手術器具を操作することをエコーテクニックと言いますが、これは外科手技の中でも下肢静脈瘤のような限られた分野でしか用いられない特殊な技術です。

「合併症」を防ぐため焼灼時間をコントロールする

上記の工程でガイドワイヤーを静脈内に挿入し、正しい位置に入っていることを確認してから、ガイドワイヤーに沿って直径約2mmのカテーテル(プラスチック製の細い棒のような形状)を同じ静脈の中へ挿入します。カテーテルは先端6.5㎝だけ金属製になっており、そこから熱を発生する構造になっています。その熱によって静脈壁を内部から焼灼(しょうしゃく)することにより静脈がふさがり逆流が止まります。

ほとんどの患者さまは、焼灼する静脈が7cmより長いので、1回の焼灼が終わるごとにカテーテルの位置をずらして静脈全長を焼灼します。焼灼の際、高周波機器の本体部ではカテーテルの「温度」、「熱発生時間」および「高周波出力」の3つが表示されます。

カテーテルの温度を一定(120℃)に保つための高周波出力が表示される仕組みになっており、焼灼が進むにつれ必要な高周波出力が低下します。「高周波出力の低下=静脈が適切に焼灼されている」ということになります。高周波機器の設定上、1回の焼灼時間は20秒に設定されているため一般的な治療法だとこの設定どおり20秒間焼灼することが多いのですが、当院では静脈の焼灼が終了したと判断すれば20秒未満で焼灼を停止します。

早ければ1~2秒で停止することもあります。そうすることで静脈を必要以上に焼き過ぎないようにしています。これは、過剰に焼灼すると様々な合併症が起こるからです。

焼きすぎず、焼かなさすぎず”~過剰焼灼を回避するために

静脈を必要以上に焼き過ぎることを「過剰焼灼(かじょうしょうしゃく)と言います。静脈壁は、加熱時間が長くなればなるほど「硬化」します。過剰焼灼により必要以上に硬化した静脈は、術後の太ももの“引きつれ”の原因となります。また、焼灼時間が長くなれば静脈周囲の神経や皮膚に余分な熱が加わり、神経損傷による術後のしびれや感覚障害、やけどによる皮膚の変色(色素沈着)が生じます。このような合併症を回避するためにも過剰焼灼は必ず回避する必要があります。

しかし、逆に焼灼時間が短すぎると「焼灼不足」という現象が起きます。焼灼不足になった場合、静脈が完全にふさがらないため、“再発”や“再疎通”の原因となります。

この「過剰焼灼」と「焼灼不足」二つを避けるためには、”焼きすぎず、焼かなさすぎず”の適切な焼灼時間の見極めが重要です。この見極めには「静脈の太さ」や「静脈と皮膚の距離」、「瘤の有無や自覚症状」、「重症度」などの項目を考慮する必要があります。

ただ、項目ごとに焼灼時間が決まっているわけではなく、これらを念頭に入れた上で経験的に焼灼時間を決めます。焼灼時間が0.5秒違うだけでも治療成績や合併症が異なります。適切な焼灼時間が見極められるようになるまで血管内治療を少なくとも1,000例以上経験しており、さらにその感覚を保つためには毎日継続的に手術を行っているという環境が必要と考えます。

再発、合併症を防ぐため行うこと

焼灼部位を正しく見極め、再発率や術後合併症の発生率を抑える

焼灼の際に使用する高周波カテーテルは、膝の内側付近から静脈に挿入し、足の付け根に向かって進めていきます。その際、カテーテルの先端をどの位置で止めるかで術後の再発率や術後合併症の発生率が変わります。

先端が手前すぎると焼灼の長さが不十分になり再発しやすくなりますし、奥に進めすぎると深部静脈血栓症という重大な合併症が生じる可能性が高まります。先端の位置はエコーで確認するのですが、足の付け根は動脈、静脈、神経組織が入り組んだ複雑な構造をしているため、エコー技術に熟練していないと、先端を至適位置でうまく描出できないのです。

膝&股関節が曲げにくい方や人工関節の方でもご安心ください!

下肢静脈瘤の治療をお受けになる方の中には、膝や股関節の曲げ伸ばしが十分にできない方や人工関節をお受けになった方もいらっしゃいます。私は下肢静脈瘤を専門とする前は整形外科専門医、いわゆる関節の専門家でした。

経験上、どういった角度が関節にとって負担がないか、どの姿勢だと楽に手術を受けて頂けるかを十分に熟知しております。「股関節や膝が硬い」、「人工関節を受けたことがある」そういった患者さまにも安心して手術をお受けいただけます。

均一に焼灼するため、皮膚圧迫が重要

血管内治療に用いる高周波機器は、カテーテル先端の発熱部分が静脈壁に完全に接触することで静脈壁が十分に焼灼されます。そのためには焼灼中は、焼灼部位を皮膚の上からしっかり圧迫する必要があります。圧迫が不均等になると、焼灼が不十分になる部分がでてきてしまうためです。

しかし、人間の脚の表面は平面ではなく、必ずカーブや曲面がありますので圧迫が不均等になりがちです。焼灼が不十分な部分は静脈壁が再生していまい、再度逆流が生じてしまいます(再疎通)。このため、圧迫する際は太もものカーブを考えてカテーテルに均等に力がかかるよう注意しなければなりません。この均等な圧迫により、静脈全長にわたって均一な焼灼が可能となります。

皮膚やけどを確実に回避するために、常に皮膚温度をチェック

過剰焼灼を避けるためには、高周波出力の低下を確認することが大切ですが、もうひとつ重要な指標があります。それは「焼灼中に皮膚の温度が上がらないかを指で確認すること」です。皮膚の色素沈着は焼灼による熱傷(やけど)が原因ですので、焼灼中に皮膚の温度が上がらないことが熱傷を避けるもっとも確実な目安になります。

ほとんどの場合、高周波出力を目安にして焼灼時間を決めても問題ないのですが、まれに高周波出力では焼灼できていないように表示されるのに、皮膚の温度が上がり実際は過剰焼灼になっている場合があります。こういったリスクを考え、焼灼中は指先で常に皮膚の温度をチェックしています。

まとめ

私が日々実感していのは、下肢静脈瘤のみに特化し、圧倒的に多くの手術数を経験するからこそ習得できる境地があるということです。下肢静脈瘤に対する治療法は「カテーテル治療」や「ストリッピング」など数種類しかありませんので、1種類の手術を非常に多く経験することになります。私のように何千、何万件と下肢静脈瘤手術をしていると、もう技術的に向上する余地はないのでは?と聞かれることもありますが、実は今でも執刀する度に新しい発見があるのです。そういった発見をさらなる技術向上に変える、日々そのような思いで診療に向き合っています。

「神は細部に宿る」という言葉は私が一番好きな言葉です。
手術において99.9%の工程ができても、残りの0.1%が治療の成否を分ける、そういった事例を多く経験しています。最後の0.1%まで決して妥協しない治療、それこそがわたくしの目指す治療です。

ここまで、治療の実情を知っていただきたく詳細にお伝えしてきましたが、内容が少々専門的になりすぎた部分があったかもしれません。「この部分をもっとわかりやすく知りたい」など気になる点がありましたらどうぞお気軽にお問い合わせください。

河野匡哉医師監修